書籍『プログラム×工作でつくるmicro:bit』の紹介(MATHRAX 久世祥三、坂本茉里子)

(ツクレル編集部より)著者による著書紹介、略して「著著紹介(ちょちょしょうかい)」のコーナーです。今回は『プログラム×工作でつくるmicro:bit』の著者であるMATHRAXの久世祥三さん、坂本茉里子さんにご自身の著書を紹介していただきます。


はじめまして。「プログラム×工作でつくるmicro:bit」の著者、MATHRAX(マスラックス)の久世祥三です。MATHRAXとは久世と坂本茉里子とで活動するアートユニットで、「触れると音を奏でる動物の木彫」や「輝く水面のような光のオブジェ」など、目や耳や肌で感じられる作品を作っています。久世は主に技術を担当し、坂本は形や空間をデザインしています(本ではイラストも担当)。作品にはセンサや電子回路を使っていますが、体験する人がシンプルに『きれいだな』『心地いいな』と感じてくれることを目指しているので、デジタル技術は隠れるようにしています。見た目が木なのに音が鳴ったりする作品は、驚いたり疑ったり、お客さんのいろんなリアクションも楽しいです。

<背中をなでると音を奏でる作品「クマ」。木の中にセンサや音の回路が入っている>

さてこの本は、micro:bitの使い方・ブロックのプログラム、工作、他のソフトとの連携など、少し難しいかな?と思いつつも盛りだくさんな内容になっています。きっと子どものほうが理解が早いだろうから、「子ども向け」だと退屈かもしれないし、高校生や大学生や社会人でも全くプログラミング経験がない人もいると思います。そんな人に向けて、プログラムの結果を目や耳で体験できるような内容を考えました。工作パートでは低予算を心がけつつ「クオリティは工夫と腕次第」という狙いで、紙を素材にした工作になっています。

ちょっとここで、自分の欲しいスマートフォンを想像してみてください。いくらすごい機能でも、見た目にネジや接着剤がはみ出ていたり、形が歪んでたり、小さな傷や汚れがあったら、とても残念に感じると思います。micro:bitでつくる作品も同じです。プログラミングと工作と分けて考えず、自分が欲しくなるものを作るために、手を動かしてみて欲しいなと思います。成功はもちろん失敗だって絶対に役立つ経験になるので!

そしてひとつ補足があります。実は出版後に音楽を作るソフト「SonicPi」のバージョンアップがあり、最新のSonicPiでは本のプログラムが動かないものがでてきました。これは少し修正すると解決します。また他にも、誤植や図のミスなどもあるので(ごめんなさい)、まずはこちらをご確認ください。

https://kuze.jp/microbit-book/

またつい最近、micro:bitの本体が新しく「v2」になるとニュースがありました。大きな変化はマイクやスピーカーとタッチ検出がついたことです。書籍ではv2ではなくその前のmicro:bitに対応した内容です。おそらくV2でも動作すると思いますが、入手できたら追って調べてみます。

ではここから、手軽に体験できる「プログラムで音楽をつくる」自由研究の例を紹介します。

プログラムと音楽

プログラムに入る前に、みなさんが学ぼうとする「プログラム」とは何でしょうか?

micro:bitの中のコンピュータは、みなさんのつくるプログラムによって、いろんな計算をして「数」を作り出します。そして数は電気信号に置きかわり、LEDやスピーカーなどの部品を通じて光や音になります。つまり、みなさんは「数」を言葉にコンピュータと会話していて、その翻訳機がプログラムとも言えます。そして算数や数学は数の学問ですが、実は音楽とも深い関係があり、たくさんの数学者が美しい音について研究しています(あのピタゴラスも!)。ということは、プログラムでも音楽が作れるかもしれませんね。

数と音楽の関係の例として、本にも書いた「ペンタトニックスケール(五音音階)」を紹介します。これは世界各地で古くから愛されている音楽(民謡など)から見えてくる不思議な法則です。その名の通り、五つの音階だけで音楽をつくります。たとえば、童謡で知られる「チューリップ」「赤とんぼ」「蛍の光」など、日本ではおなじみの曲ですが、「使われている音階が五つ」という共通点があります。

確認してみましょう

micro:bitを持ってない方でも、ブラウザだけで体験できます。実際にmicro:bitに書き込んで実験したい人は図を参考にミノムシクリップと、イヤフォンやスピーカーを準備してください。詳しくは本のPDFサンプル(24〜26ページ抜粋)をご覧ください。

なおミノムシクリップはこちらから買えます。ホームセンターにもあるかもしれません。https://akizukidenshi.com/catalog/g/gC-04352/

個人的には写真のようなスピーカーがみんなに聞こえるのでおすすめです。イヤフォンでも大丈夫です。(いずれも100円ショップで買いました)。

チューリップ

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赤とんぼ

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蛍の光

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※プログラムの音を聴くには、「シミュレータ」ボタンを押してください。

五音音階のひみつ

プログラムの音を見てみると、チューリップは「ドレミソラ」、赤とんぼと蛍の光は「ドレファソラ」の五つの音階でできていました。面白いことに、この五音の組合わせはその音楽が生まれた土地によって違います。たとえば沖縄民謡は「ド・ミ・ファ・ソ・シ」、スコットランド民謡は「ド・レ・ファ・ソ・ラ」、バリ島の民族音楽ガムランは「ド・レ♭・ミ♭・ソ・ラ♭」や「ド・レ♭・ミ♭・ソ♭・ラ♭」などです。この違いは、土地の気候や文化の違いから生まれたとも考えられています。たとえば木を使う文化と石を使う文化では、建物や街の音の響きが違います。すると「美しく感じる音」にも違いが生まれ、それが先祖代々、民謡のような形で受け継がれてきたのではないかと想像できます。先ほどの「蛍の光」の原曲はスコットランド民謡なので、共通のご先祖様だったのかもしれませんね。

自由研究

micro:bitのランダムをつかって、ただめちゃくちゃに音階を奏でるプログラムと、五音音階の組み合わせで音階を奏でるプログラムをつくってみました。2つを聴き比べてみてください。次に、五つの音階の組み合わせを、沖縄民謡、スコットランド民謡、ガムランと変えて、聴き比べてみてください。どんな感じがするでしょう?(人それぞれに感じて欲しいので、ここで個人的な感想は書かないことにしますね)

ランダムに奏でるプログラム

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ランダムに五音音階(ドレミソラ)を奏でるプログラム

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ひと工夫

先ほどの音たちは、同じ長さで鳴っていました。この長さを変えてみるとどうでしょう?また、音量を変えてみるとどうでしょう?

ランダムに五つの音階・アレンジ例

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世界は広い

音階といえば「ドレミファソラシド」と考えがちですが、それは西洋基準の音階です。バリ島ではドレミの間の微妙な音も使うので、五音の組み合わせが繊細で、厳密に言うともっと細かい音です。アフリカや東洋の音階についても調べてみても面白そうですね。きっと人と違った雰囲気の音楽になると思います。でも、用意されたブロックでは「ドレミファソラシド」以外の音階は選びにくくなっていたり、そもそもピアノの鍵盤から選ぶ音階は西洋基準の考え方です。何も気にしないでいると、そんなつもりはないのに西洋音階だけの音楽になってしまいます。

<鍵盤から音階を選ぶツール>
<最近新しく追加された「メロディ」ブロック(本には載っていません)。ドレミファソラシド以外を選べない。>

なので広い世界に耳を傾けて、いろんな国のいろんなジャンルの音楽を聞いてみると何か発見があるかもしれません。そしてその発見は作品のオリジナリティのヒントになるはずです。

もっと本格的な音楽や新しい表現に

この記事ではブラウザやmicro:bitだけで体験できる内容で、音について紹介しました。しかしmicro:bitだけでは録音した音を使ったり、「ピアノ風」「ギター風」のように音色を変えることは難しいです。もっと本格的な音楽にしたいなという気になってきませんか?

そこで書籍の後半に「Chapter 9:より自由な表現の実践」と題して、プログラムで本格的な音楽をつくることができる「SonicPi」というソフトを紹介しています。またさらに発展して「Processing」というソフトと、micro:bitの加速度センサと無線を組み合わせ「体を動かして音楽と映像をコントロールする」例も紹介しています。こちらはメディア・アートに興味のある方や、高校生や大学生にも手応えある内容になっているのではないかと思います。ぜひ本屋さんでお手にとってみてください!

<micro:bitのセンサと無線をつかって「体を動かして音楽と映像をコントロールする」イメージ>

ご購入はこちらから

https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274222894/

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