シリコン型を使った複製の方法
3Dプリンターの造形物を原型にシリコンで型を取り、レジンを流し込んで同様の造形物の複製を行いました。
今回はレポートとして、その過程を紹介しながらシリコン型からレジンでの複製、量産の手順を説明していければと思います。
(※注)こちらはあくまで制作過程の記録であり、弊社はシリコン型製造や筐体製造の受注は請け負っておりません。
なぜシリコン型で複製をするのか
今回複製したいものがこちらです。
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3Dプリンターで造形したパーツ。今回はこちらを複製します。[/caption]
実際の手順の紹介の前に、3Dプリンターがあるのに、何故わざわざ別の方法で複製するのかをお話しておきましょう。シリコン型を採用した理由は主に2つあります。
より品質の良い複製のため
3Dプリンターの造形物はどうしても粗さが目立ってしまいます。(詳細は
こちらをご覧ください。)
丁寧に表面処理した造形物を原型にすることで、美しい複製を生産することが出来ます。
製造時間の短縮のため
造形に一つあたり1~3時間ほどかかってしまうような造形物を5個や10個要求されたとしたら、一つ一つプリントし、また一つ一つ表面処理をかけていては大変な時間を費やすことになります。
シリコンの型を作るのもそれなりに時間はかかりますが、型さえ出来てしまえばその先は非常に手早く複製が行なえます。
シリコン型〜レジン複製の手順
それでは実際の手順を説明していこうと思います。写真は作業しながら撮ったので、少々粗雑なところはご容赦ください。まず始めに必要なものを用意します。
シリコン型に必要なもの
- シリコンと硬化剤(セットで販売されていることが多いです。)
- 電子天秤
- 粘土とヘラ
- 剥離剤と刷毛(絵筆など)
- 容器
- かき混ぜるもの(割り箸など)
- 型取り用ブロック(レゴブロックなどでもOK)
- カッター
- 曲がるストロー(代用品でも構いません)
- 再利用のシリコン(かさ増しに使えます。必須ではありません。)
- カメラ用のブロアー(カメラを掃除するシュポシュポするアレ)など
レジン成形に必要なもの
- レジン液(A液とB液)
- 電子天秤
- 容器(紙コップなど)
- かき混ぜるもの(割り箸など)
- 輪ゴム
- ビニールシートなどの下敷き
- バリ取りの道具(カッターやニッパー、サンドペーパーなど)
シリコン型作成の下準備
シリコン型作成のための第一歩目はブロックで枠を作り、粘土を敷くことです。枠を作り、隙間なく粘土を埋め、ヘラで平らにしていきます。
[gallery ids="2781,2782" type="rectangular"]
続いて複製の原型を置いていきます。改めて、今回複製する元の造形物がこちらです。カップを縦に分割したような形状をしています。
[caption id="attachment_2783" align="alignnone" width="800"]
エポキシパテで凹凸を埋め、サンドペーパーをかけました。[/caption]
原型となる造形物は表面処理を済ませておきましょう。
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先ほど下ごしらえした枠の上に、写真のように「原型」「ストロー」を配置、その間にいくつか「凹み」を付けていきます。以下で詳しく説明していきます。
原型を置く
まずは原型の配置です。今回の原型の形状の場合、
カップの内側を粘土で埋めておく必要があります。型の分割については以下の図の通りです。
[gallery ids="2960,2961,2962"]
導線の確保
原型を置き、曲がるストローを使って導線を作りました。
枠内に原型を置く前に導線のスペースを確保してきましょう。それぞれが枠の端に行きすぎないように配置を考慮しましょう。
レジンがどうやって流れ込むかは、下の図のとおりです。導線から型へ流れて、空気穴へと達します。(空気穴に関しては後から説明いたします。)
[caption id="attachment_2959" align="alignnone" width="800"]
右側にあるのが導線。大きい空間が原型で抜いた型。上に向かっているのが空気を逃がす穴です。[/caption]
嵌合(かんごう)の凹凸
導線が配置できれば最後に粘土の上から数個の凹みを付けます。これは二つに分けた型を合わせる際に、ズレてしまうのを防ぎます。(凹みの付け方は先ほどの写真を参考にしてください。)
ここまで出来ればOKです。再びブロックを積み重ねていきましょう。
シリコンの流し込み(型A)
*型を二つに分けますので1つ目の型をA、2つめの方をBと呼ぶことにします。
確認事項
シリコン流し込みの手順を紹介します。流し込む前に忘れ物がないか確認しましょう。
まずは上で説明した手順。
導線の確保、嵌合の凹みなどをもう一度確認します。問題なければシリコンの準備に移りましょう。
シリコン液の準備
シリコンの原液に硬化剤を混ぜてシリコン型を固めていきます。分量の比率が決められているので、比率に従います。今回は原液:硬化剤が「100:4」という比率で指定されているので電子天秤で測り、容器に移して配合していきます。
目分量では上手く行きませんので必ず秤で計測しましょう。
硬化剤を入れたらかき混ぜていきます。始めは液が分離していますが、だんだんと馴染んでいくはずです。均等に溶け合ったら型に流し込んでいきましょう。
流し込み
枠の隅から流し込むこんでいくのが良いでしょう。原型の上には出来るだけ均等に垂らしていきます。始めは原型や粘土の表面に行き渡るように、続けて全体へと流していきましょう。
形状が複雑な部分は、気泡が溜まりやすいので注意しましょう。気泡があるように見えたらブロアーで空気を吹きつけ潰していきます。
[gallery ids="2786,2787" type="rectangular"]
硬化まではここから数時間かかるので待ちましょう。今回使用したシリコンの場合は8時間かかります。(作業が終わったら時間をメモしておきましょう。)
シリコン型の取り出し(型A)
8時間待ちましたので取り外します。ブロックを外し、裏面から粘土を取り除きます。
[gallery ids="2788,2789" type="rectangular"]
原型が複雑だと型に合わせ直すのが大変なので、この時点では
原型を不用意に取り外さないことをお勧めします。気を付けながら粘土を洗い流していきましょう。
ストローは一度外しても問題ないでしょう。粘土を洗い流したら、余計な場所に入り込んでるシリコンをカッターで切除していきます。いわゆるバリ取りです。
誤って重要な箇所を切ってしまわないように注意してください。
一通り終わったらストローを元の位置に戻し、再びブロックで型を組んでいきましょう。
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バリを取り除き、ブロックを組んだところ。[/caption]
シリコンの流し込み(型B)
再びシリコンを流していこうと思います。ここで忘れてはいけないのが
離型剤の塗布です。
シリコン同士は固まってしまうので、型の表面には離型剤を塗らなければいけません。
非常に重要な手順ですので忘れないようにしましょう。
流し込み方は型Aの時と変わりません。原型周りの気泡に注意して注いでいきましょう。注ぎ終わればまた硬化までの時間を待ちましょう。
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硬化時間を早めようと、ヒーターを置いてみましたが、あまり変わりませんでした。[/caption]
シリコン型の取り出し(型B)
硬化時間を待って、再び型を取り出します。シリコンは柔軟ですが、無理な力をかければ割けてしまうこともあるので、傷付けないように慎重に外していきましょう。
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取り出した型がこちらです。[/caption]
型Bも出来上がりました。型Aで行ったのと同様に、こちらもバリを切除していきます。終わったら、引き続きレジンの流し込みの準備に取り掛かっていきます。
レジンを流し込む下準備
レジンの流し込みに移っていきますが、その前に内部の空気を逃がす抜け穴を更に通さなければいけません。注ぎ口を上に向けたとき、同じ面に抜け穴が無くてはいけません。
空気穴
原型の形をよく見て、空気が逃げられないような箇所を探しましょう。その箇所から上に向かってカッターで切り込みながら通り道を作っていきます。
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型の内部に異物があればきれいに取り除きます。
液漏れの対策
2つの型の間に隙間があるとレジンを注ぎ込んだそばから漏れ出してしまいます。漏れ防止のため、最後に型を閉じて輪ゴムをかけましょう。これで準備できました。
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底面に隙間が空いていないかチェックしましょう。[/caption]
レジンの流し込み
いよいよ流し込んでいきます。レジン2液と容器、かき混ぜる棒、電子天秤を用意します。
シリコンのときと同じく、2液には指定された配分があります。今回は1:1です。電子天秤で軽量しながらA液、B液と順に注いでいきます。
レジンは硬化時間が早いのでB液を注ぎ終えたら即座にかき混ぜましょう。そしてそのまますぐ注いでいきます。
注ぎ口から流していくと
少し溢れそうになって、流し込むのを止めると液がひいていきます。そうしたらまた流し込む。この繰り返しです。
レジンを流し込みながら同時に空気穴にも目をやってみましょう。
レジンの液が空気穴から見えてくれば、液が内部に行き渡ったサインです。
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右手が注ぎ口。左にある幾つかの穴が空気穴です。液が上がって来ているのが分かります。[/caption]
あとは硬化を待つのみです。今回使用したレジンはは15~30分とのことです。(レジンを注入した時間をメモしておくと良いでしょう。)
レジン取り出し
硬化時間が経ったら型を開いてみます。シリコンや内部の造形物が割れたりしないように注意を払って取り出します。
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取り出した様子。導線や空気穴まできれいに抜けています。[/caption]
レジンの導線に使ったストローや、空気の通り道まで型が取れていますから、バリとして切除します。カッターやニッパー、サンドペーパーなどで処理していきましょう。
造形物をよく観察してみましょう。気泡が溜まっている所があれば空気穴を追加して次のレジンを流し込んでみましょう。
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よく見るとふちに気泡が出来てしまっています。空気穴を増やす必要がありそうです。[/caption]
気泡が見つかったら空気穴を追加。気泡を解消していければ、その先は同じ要領で生産していくだけです。
成果
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バリを取る前の様子。4時間程でこれだけの数が生産できました。[/caption]
今回は約30分あたり1個のペースで生産し、素早く量産出来ました。
ちなみに原型となった造形物は、3Dプリンターで約2時間半かけてプリントされました。それからまた2時間ほどかけて表面を整えていますから、同じ品質で数を増やしたいとき、どちらが効率的かは言うまでもありません。
最後に
長くなってしまいましたが、以上が今回試みた製造手法の記録と解説でした。
今回のケースは、同じパーツを少数ではありますが複数生産したいというニーズがあり、出来るだけ見た目の美しいものを製造したかったため、シリコン型でのレジン成形は適切な手法だったと言えるでしょう。
体験した印象としては、シリコンもレジンも(まだ奥深いですが)それほど難しくはないので、誰でも試すことが出来ると思いました。ですので機会があれば是非お試し頂ければと思います。その際にはこのブログも参考になれば幸いです。
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