Chat GPT o1-previewの業務活用事例 ―市場規模の推定―

2024年9月に公開されたOpenAIの新AIモデルのo1-previewは高い推論能力を持ち、化学や物理、またプログラミングの分野では高いパフォーマンスを示すことが報告されています。しかし、普段の業務では理系分野の知識を使わない方も多いのではないでしょうか。より多くの人が活用できるように、今回はo1-previewに事業企画と、その時の市場規模や売上をフェルミ推定させてみました。

1. 事業企画と市場規模の算出

新しいモデルであるo1-previewでは今までほどプロンプトを工夫することなく、簡潔で明確な指示を出せれば正しく推論してくれるようです。そのため、上記のようなプロンプトでインバウンド市場向けの新商品を企画してもらい、市場規模をフェルミ推定で算出してもらいました。
今までのモデルとは異なり、下記のように段階を分けて思考しています。思考時間は長くなると報告されていますが、今回のような指示では18秒と、それほど長い時間はかかりませんでした。

フェルミ推定では、前提となる数字も必要となります。今回は訪日外国人観光客の数を年間3,000万人と仮定しています。観光庁の統計によると2023年の訪日外国人観光客数は2,507万人であり、コロナ前の2018年は3,119万人、2019年は3,188万人であり、3,000万人は妥当な仮定だと言えます。

今回は伝統的なお土産、電子製品・家電、化粧品・美容製品、ファッション・アパレル、高級ブレンド品、食品・飲料、文化体験の7つのセグメントに分けて市場を推定しています。観光庁の推定では、2019年の買い物代は16,690億円、2023年は13,954億円とされています。フェルミ推定の合計値は8,550億円なので、その金額よりはかなり小さくなっています。観光庁の統計では宿泊費や飲食費、娯楽サービス費は別のセグメントとして算出しているため、買い物代の金額には入っていません。買い物代の内訳は明記されていませんでしたが、別の内閣府の訪日外国人の消費金額の分析では、買い物代の一例として、7つのセグメント以外にも、医薬品や健康グッズ、本やゲームなども書かれていました。ホビー用品は日本で購入するものとして大きいと考えられますが、版権の問題などもあるため新商品としての企画にはハードルがあると考え、今回のセグメントには含まれていなくても良いと考えました。また医薬品なども新規でインバウンド向けとして開発するには高いハードルがあります。では、提案された7つのセグメントのどこで新商品を提供するのがいいのでしょうか。

先ほどは全体の市場についてのみを対象としていましたが、新商品を企画する場合は、実際に獲得できる市場も考える必要があります。また獲得できる可能性がある市場規模と実際に獲得する市場規模も異なります。それらを順番にTotal Adressable Market(TAM), Serviceable Available Market (SAM), Serviceable Obtainable Market (SOM)と呼びます。先ほどのフェルミ推定で算出したのはTAMになります。

回答結果の通り、文化体験が参入するのに最適な市場だと判断されました。理由も書かれていますが、新規事業としての参入ハードルの低さが理由として挙げられています。こちらの情報は与えていないため、障壁をメインに検討されたものと考えられますが、もしこちらの強みや既存事業の情報も与えると、それも考慮した新規事業の提案がされるのではないでしょうか。
またSAM, SOMも算出されています。仮説の妥当性は判断できませんが、計算上は妥当な数字のように思えます。TAMの計算は先述の推定結果がそのまま用いられており、事前の計算結果の内容も理解して活用できていることがわかります。

2. 内容の考察と活用時の注意点

今回は科学分野以外にもロジカルな推測が必要となるマーケティングの領域でフェルミ推定にo1-previewを活用してみました。推定の過程は概ね問題なく行えているように思えます。思考の過程も表示されるため、自分で考えるときの参考にもできそうです。思考の過程も妥当なものであり、最終的な推定結果も妥当だと考えられます。仮定として使用した数値も妥当なものであり、高いレベルでのフェルミ推定が行えていると言えるでしょう。ただし、セグメントの分け方は、抜け漏れがあったり、ファッションや美容と高級ブランドでは被りもある可能性があるため、MECEには分類できていないようにも感じます。プロンプトでの指示の出し方や前提条件の与え方を工夫することで、より正確な分析をしてもらう必要があります。また従来のモデルが苦手とするような計算処理は問題なく行えていましたが、フェルミ推定では簡単な四則演算程度の計算しか使わないため、このレベルであれば従来のモデルでも問題なく計算できることも多いです。より高次元な計算モデルを必要とするような場合の方が、o1-previewの実力を存分に発揮できる可能性もあります。また現在のo1-previewではインターネット検索やファイルアップロードの機能がないため、過去に学習したデータを元にした推定しかできないという弱点もあります。これは今後改善されると期待できますが、仮定として使っている数字が常に変わるようなものよりも、基本的には不変な科学の分野の方がより正確性が高い結果を出せることも頷けます。O1-previewが科学の領域で高い性能を示すことは報告されていますが、今回のようにそれ以外の領域でも高いレベルでの回答を出してくれるため、従来モデルだけでなくo1-previewも同時に使用して、両者のいいとこ取りができるように使いこなせると理想的ですね。今後もモデルのアップデートや最新モデルの更新も続くと思われますので、生成AI領域のニュース発信にも引き続きご注目ください。

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