『こんにちはマイコン』から『こんにちはPython』へ
こんにちは。マンガ家のすがやみつると申します。マンガ家の仕事をしながら京都精華大学国際マンガ研究センターで教員もしています。新型コロナ禍の今年5月に、ひさしぶりの描き下ろしマンガ単行本『ゲームセンターあらしと学ぶプログラミング入門 まんが版「こんにちはPython」』を上梓させていただきました。この本は、1982年に上梓した『こんにちはマイコン』の38年ぶりの続編とでもいえるもので、全編がマンガのPython入門書です。
いま、私は70歳ですが、この年齢で単行本のマンガを描き下ろすことになるとは夢にも思っていませんでした。老眼と乱視のせいで、マンガを描くような細かい作業は根気がつづかず、マンガの仕事は8ページくらいのものにとどめていたからです。でも、2018年にiPad Proでマンガを描いてみると、画面を拡大できることから目にかかる負担も少なく、ひさしぶりに『ゲームセンターあらし』の新作を「コロコロアニキ」という雑誌に発表できるまでになりました。
それを見ていた日経BPの編集者が、「マンガ版のPython入門書を出しませんか?」と声をかけてくれたのです。
さいわいにして私はPythonの経験がありました。2005年に54歳でインターネット経由で学べる早稲田大学人間科学部eスクールに入学し、2008年に卒業した後、同じ早稲田大学の大学院人間科学研究科修士課程に進み、そこで2年間、Pythonを学ぶことになったのです。
1年目はPythonの基礎からDjangoやMySQLを組み合わせ、Google AppエンジンでミニBlogアプリを作るまで。2年目は好きなものを作っていいというので、Python CGIによる「こんにちは統計学」という統計分析サイトを構築しました。このサイトは現在も公開中で、多くの人に使っていただいています。
2012年に京都精華大学の教員になってからは、授業の出席届けや感想を提出するためのサイトをPythonで作るなど、ずっとPythonには親しんできまし
・こんにちは統計学
https://www.m-sugaya.jp/python/
めざすは入門書の入門書
日常的にPythonには触れていましたが、マンガ版Python入門となれば、やはり徹底的に初心者向けの本にしたいものです。そもそも編集者が私に依頼してきたのは、小学校でのプログラミング必修化を受けてのこと。小学生を対象にしたプログラミング入門書ということで、私の『こんにちはマイコン』を思い出していただきました。
私は、『こんにちはマイコン』以降も多数のパソコン入門書を上梓していますが、いつも「入門書の入門書」にすることを心がけています。書店のコンピューター書籍の棚には、プログラミングの入門書がたくさん並んでいます。Pythonの入門書もズラリと並んでいますが、「入門」と銘打ってはいても、独習でプログラミングを学びたいまったくの初心者が読むには、ハードルの高いものがほとんどです。
私が目指している「入門書の入門書」は、書店に並ぶ入門書への橋渡しをするもので、マンガだからこそできるメッセージや要素を盛り込んでいます。
エラーなんか怖くない!
私のマンガ版入門書の特徴は、とにかく登場人物たちがエラーを出しまくること。昔、BASICを学んだ頃もそうだったのですが、プログラミングでミスをしたときに表示されるエラーで、ココロがくじかれます。でも、エラーが出たからといってパソコンが壊れるわけではありません。多少のエラーなんかにめげずにプログラミングしてほしい。そんな願いを込めて、マンガを描いています。
変数は変な数?
マンガならではの説明もあります。その代表例は「変数」の説明でしょう。「A = 1」「B = B + 1」というような変数の概念は、初めてプログラミングに取り組む人にとって最初の難関といえるかもしれません。私は『こんにちはマイコン』でも『こんにちはPython』でも、変数を箱などの容れ物にたとえて図解で説明しています。昨今の考え方では「箱やバケツにたとえるのはおかしい」という人もいるのですが、あえて無視しています。そのような教科書的なことは次のステップで学んでいただけばいいと考えているからです。それよりも何よりも大事なことは、キーを打つのもおぼつかないような初心者中の初心者にも、パソコンやプログラミングに親しんでほしい。それが私がマンガ版入門書に込めている最大の願いです。
はじめてプログラミングをする人に
というわけで、この本は、まだプログラミングをしたことのない人でも、プログラミングの第一歩が身につくような構成にしています。そのため現在のプログラミングでは当たり前になっている「オブジェクト指向」のほか、Pythonならではの「タプル」「リスト」「辞書」などについても触れていません(「関数」については少し触れています)。これらも次のステップで学んでいただければいいと考えているからです。
マンガのキャラクターはオジサン向けですが(笑)、内容は小学生でも読みこなせます。初めてPythonを触ってみたい人に読んでいただけたら、うれしい限りです。
ラズパイで『こんにちはPython』のゲームを
本書で完成させるのは、『こんにちはマイコン』で紹介したBASICによるスカッシュゲームのCUG版です。CUGといっても実にシンプルなもの。どれくらいシンプルかは動画を見てください。
ただし、この本で紹介しているPythonのプログラムはWindows用です。ラズパイのPythonでも動きますが、音が出ません(エラーになります)。ラズパイ版については、CaCCラボの中の人さんという方がnoteで紹介してくださっているので、こちらを参考にしてください。
『こんにちはPython』のスカッシュゲームをラズパイ(Raspbian)で動かしてみた(CaCCラボの中の人)
https://note.com/justforfun/n/nd36621d1ab2e
『こんにちはPython』は、ラズパイを使いこなしている皆さんには、ちょっとやさしすぎるかもしれません。でも、皆さんのまわりには、ラズパイやプログラミングにトライしようと思いながら、「むずかしそう……」と思って、しり込みしている人も多いはず。そんな初心者以前の初心者の皆さんに、ぜひ、紹介してあげてください。よろしくね!
『こんにちはPython』
著者:すがやみつるさんについて
京都精華大学国際マンガ研究センター教授。関西大学非常勤講師。
1950年静岡県富士市生まれ。1972年『仮面ライダー』(原作・石ノ森章太郎)にてマンガ家デビュー。以後、児童マンガを中心に活動。1983年『ゲームセンターあらし』『こんにちはマイコン』の2作で第28回小学館漫画賞受賞。1994年本名の「菅谷 充」名義で『漆黒の独立航空隊』発表、娯楽小説家としてデビュー。2013年京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコース教授に就任。
2018年「コロコロアニキ」に『ゲームセンターあらし』の続編を発表。
公式ウェブサイト http://www.m-sugaya.jp/
Twitter https://twitter.com/msugaya